鬱蒼とした森林のような高層ビル郡に街の明かりがきらびやかな光を射している。
この街を歩いているだけで主人公になれるような気がしていた。

学生時代のバンド活動の影響から適当に入学した専門学校を1年足らずで退学して以降、
フラフラと泳ぐように気ままな生活を送っていた。
明確な目標はないが東京に来ることが目的だった。
ただひたすらにからっぽだった。

気楽さとひもじさの秤を釣り合わせるように心の安定を無意識に貪り、
生活はすさんでいく一方だったがなぜか毎日に満足していた。

その日暮らし。

これで良かったのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ余地はなかった。

しかしいつからだろうか。
変わらなければいけないと思ったのは。

友人に教わって始めたDTMに出会ったとき。
また音楽を作ることの楽しみを知りこれで生きていくことは出来ないかと思った。
今までの東京の日々はなんだったのだろうか。
蛇口を捻ったようにやりたいことが浮かんでくる。
少しずつ仕事ももらえるようになりこの瞬間確実に主人公になっていた。

しかしそんなに世界は甘くない。

実力が伴わなければ役割は剥奪されてしまう。
やがて取り戻した目標を諦めて趣味として付き合うことを選び就職をした。
安定した会社で一生勤め上げていずれ家族を作って一生をまっとうする。
新しい目標。

これで良かったのだ。

自分に言い聞かせるように毎日を繰り返した。
しかしどんどん自分という存在が希薄になっている気がしていた。

これで良かったのだろうか?

…。
会社を辞めよう。

そしてまた音楽が自分を主人公にしてくれる。

音楽を作ろう。